(・・パンッ)
・・・?
まるで銃声のような、乾いた音が響く。・・・いや響いた気がした。
私は午後の昼下がり、得意先に向かうため少し早めの昼休みを終え、会社の本社ビルの階段を下っていた。わざわざ各駅停車のエレベーターに乗るよりも昼休み時は階段の方がよっぽど早い。
2階の踊り場をスロープに沿って華麗にUターンし、1階へ下って行く最中だった。
それは衣類越しに触らなくてもわかる。すでに「ヌルッ」とした感覚が皮膚を伝っている。
(・・・やられた?)
全身から冷や汗が噴き出した気がする。その「ヌルッ」とした感覚は噴き出した汗でない事くらいわかっている。
怖い。とにかく確かめるのが怖い。傷は浅いぞ、焦るな、傷は浅いのだ・・・自分に言い聞かせる。
2階に戻って助けを呼ぶか、それとも会社に併設されたコンビニに駆け込むか悩んだ一瞬ではあったが、後者のコンビニを即座に選ぶ。
(頼む・・・!絶対にあるハズ!)
そう、私がコンビニを選んだのには理由があった。あの時、会社の2階に戻ってもできる事と言えば現状確認、傷の深さの確認及び応急処置が出来たくらいだっただろう。
(コンビニにさえ辿り付ければ・・・)
ぴらぽらぽらー♪ぴらぽらぽ~♪
「いらっしゃいませ~」
某コンビニのBGMと店員のノンビリとした挨拶が私の置かれた状況とかなりの温度差を感じる。店員はまだ気づいていないようだ。とにかく騒ぎになるとマズイ。
(あるか?・・・あるか?・・・あるか?)
焦るな、きっとあるハズだ。自分に言い聞かせる。
「あった!2L!」
私はレジに向かうが念には念を、余裕を見せる為にアイスコーヒーのSサイズを注文する。
「暖かくなってきましたね~」
「そうだね~」(o^―^o)ニコ
店員はもちろん顔なじみだ。ここでバレたらここまでの苦労が水の泡。慎重に行動に移そう。
その2Lを受け取り、アイスコーヒーをドリップ機から淹れ、いったん外に出るフリをするがそのままUターン。
「あ、トイレお借りしまーす」
「奥になります~」
(よし!)
トイレは空いている!順調だ。ここまで順調・・・順調・・・
あ
_| ̄|◯
被弾!
ズボンを脱いだ時にスーツのズボンに被弾!
最後の最後で詰めを誤った・・・。
40歳も後半になると空砲と実弾を間違う年齢です。
みなさんも十分お気をつけください。
まさかのパンときた。
おわり