売れない保険屋さん

セールストークのネタになれば。

③D専アンドロイド工場「PIG4」

「我が社へようこそ!」
Aを含め、中途採用で採用された人数は50人。
その50人の前でD専アンドロイド工場オーナーの挨拶が始まった。

「エリートの諸君!そのD専能力をいかんなく発揮し、より一層のD専に磨きをかけ、我が社の発展に尽くしてもらいたい!」

見渡せば日本人のみならず外国人も目立つ。D専たちの情報網は国境を越え、見るからにDB専な海外組もいる。しかしながらその中でもひと際目立ち、異色のオーラを放つ世界中に名をはせたD専がいた。

(D専の世界トップクラスじゃねえか!)

世界トップクラス・・そう呼ばれる事にふさわしい3人が最前列の椅子に座っている。


W氏:無精ひげで帽子をかぶったその男は「D専は死せず!」を信条とし、幾多の死線を潜り抜けてきた戦場カメラマンのW氏だ。その生と死の一瞬を切り取った写真でD専の存在を世に知らしめた彼はノーベル平和賞の受賞候補としても有名である。

Z氏:白衣を身にまとった男、Z氏は「ゴッドハンド」と呼ばれ、年間300例の脳手術を行う脳外科の権威。「血糖値は経験値」の術式を確立し、世界中の要人から手術オファーが来ているがその報酬は法外である。近々北朝鮮での手術を控え、渡航予定だという情報もあったが・・・?

X氏:D専というかDBである。しかしながら見た目からは想像もできない伝説のカンフーの使い手であり香港映画「燃えよデブゴン」は彼の生きざまを描いた作品とされている。「素早いDBが至上最強」という世の中の常識を作った男だ。

(いくら好待遇だからって、この会社、何をたくらんでいる?)

「D専には宗教も犯罪も存在しない!」「信じるものは偉大なるDBのみ!」「人類は偉大なるDBの前では平等だ!」D専アンドロイド工場のオーナーがひときわ大きなトーンで叫ぶ。「むほおおおおおおおおお!!!」地響きのような歓声で呼応するD専たち。世界中から集められたエリートD専たちの目は狂気と歓喜に満ち溢れ、「DB!」「DB!」「DB!」とD専工場オーナーを褒めたたえる。

(これがD専の世界・・・?)

Aの目的は潜入捜査だ。「なりきる」必要があるため、D専の予備知識は十分に蓄えて臨んだものの、Aの理解を超える世界がそこにあった。

「お互いがんばろうぜ!」

「ああ、ポッチャリ派だなんて甘い事言ってたら」

「すーぐ置いて行くぞ、だろ?ははははは」

新入社員であるD専たちのモチベーションは高く、すぐに仲間意識は形成され、すでにライバル意識が芽生え始めていた。

(課長、俺、やっぱ無理かも)

D専は一日にしてならず。Aは潜入捜査ついでに自分もD専になれればDBになった妻を抱く事ができ、C子との関係も保たれる一挙両得でお得なプランを検討していたが、生半可な気持ちではいきなり心が折れる環境にいる事を理解した。

「あー、諸君。話に続きがあるんだ」

D専アンドロイド工場オーナーが再び話しだす。

「成績上位のものは役員待遇を考えている。つまり私の右腕となってもらう。」

会場が静まり返る。

「約束しよう。1年後、この50名の中から4名、役員確定だ。」

(・・・マジ?)

「ぶほおおおおおおおおおお!」

怒号が鳴り響く。D専たちの歓喜の咆哮だ。

(潜入捜査にはもってこいだけど・・・絶対ムリ)

D専アンドロイド工場オーナーの側近になれば会社の情報も筒抜けだ。しかしながらD専素人というかそもそもDB嫌いなAはマイナススタートでしかなく、世界中から集められた超D専エリートたちを相手にD専で勝ち抜いていくのは幼児がメジャーリーガーの剛速球を打ち返すより難しい。いくら「SSS」のエースと言えど今回ばかりはレベルが違いすぎる。

(ミッションは「D専失踪事件」の解明だったよな)

(こんな大量のD専たちが失踪していくのか・・・?)

Aはミッション遂行のため、D専たちとお近づきになる事から始めようと決意した。間違いなくこの50名の同期たちの中でも役員候補はあの3人。なんとかその世界トップクラスのあの3人に接触し、トップクラスのD専環境に身を委ねる事でなんとなく自分の存在感を出していく漁夫の利作戦だ。別名は虎の威を借りる狐作戦とも呼ばれ、Aの得意とする戦法の一つ。

W氏「俺の事はわたぶ~と呼んでくれ。」パシャ

Z氏「・・・・お好きなように」フン

X氏「私はキンポーあるよ!あちょー!わははは!」

戦場カメラマンのW氏はわたぶ~と名乗り、寡黙な脳外科医はドクターと呼ぶ事にした。カンフー使いのキンポーのおっさんはノリもよく、誰とでも友達になれるタイプで助かった。

・・・しかしながらそれも全て杞憂に終わる。

(私とこの3人が同じ配属先?どうして?)

発表された配属先が幸運にもいきなりその3人と同じ部署だったのだ。

「ふん、君はD専素人か」

寡黙なドクターがつぶやく。

(ぞく・・・・っ)

(いきなり見破られた!)

Aの全身に緊張が走り、背筋が凍るよりも早くAの本能が動き、ファイティングポーズを取る。国家組織の一員たるもの実践的戦闘訓練は普段から行っていて、SSS特有の特殊総合格闘技をマスターしていた。身バレしようものなら相手を叩きのめしてでも生還あるのみ。

「ふん、遅い」スッ

ドクターの白衣から伸びた左手の先にはメスが光り、Aの頸動脈をとらえた。

(速い!これがゴッドハンド・・!終わった・・・)

シュババッ

「まあまあお二人さんわははww」

キンポーのおっさんがドクターの左手を抑え、メスの切っ先を指で摘まんでいる。ドクターのゴッドハンドを上回るスピードで事態を収拾したキンポーのおっさんはマジで素早いDB=史上最強だ。

 「D専素人君の赤い血をカメラに納めたかったケドネ」

わたぶ~がニヤニヤしながらカメラのシャッターに指を掛けていた。これもなかなかのスピードだ。

「非D専と同じ配属先など・・・虫唾が走るわっ」

ドクターがメスを懐に収め、キンポーのおっさんになだめられるようにして席につくと一人の男性が現れた。

「こんにちは」

「こんにちは」

(あ、この人って・・・)

「この度は入社おめでとうございます。私は皆さまを面接した面接官です。メンちゃんと呼んでください。」

「いきなりですが何か質問がありますか?」

「メンちゃん、なんで俺がこんなすごいメンバーと一緒の配属先なの?」

Aは素直な疑問をぶつけた。

「それはアナタが非D専どころかDB嫌いだからです」

「・・・ちっ」

ドクターが舌打ちする。

「D専トップクラスの3名と同じ環境で仕事してもらいます」

「そうする事で化学反応を起こし、万が一Aさん、アナタがD専になる事が出来たならそれは新たなる人類への偉大なる進歩、大いなる糧となるでしょう。これほど世界各国のD専たちが望んでいる研究は他にはありません。」

「ちなみに・・・何も成果が挙げられない場合、役員の可能性はありません」

 「やっぱ世の中甘くないね~わっはっはwww」

キンポーのおっさんが大声で笑う。

「あ、俺、D専になりたいんっすよ!マジで!」

「いい心がけだね。どうして?」パシャ

わたぶ~の問いかけにAは妻との夜の営みの一部始終を話しだした。

 

「ごく・・・」

ドクターが飲み込む唾液の音が静まり返った部屋に響く。すでに席から立つ事もできない3人。Aの話に世界トップクラスの3人はフルおっきしていた。

ドクター「つまり・・結婚当初はやせてたのか?」ゴクッ

わたぶ~「子供を産めば太るのは仕方ないが・・・」ハアハアパシャ

キンポー「わはははは!しかもやせる努力をするどころか毎日ポテチを大量に!?」

「ええ、でも、顔は昔のままで、かわいいんすよね」

3人「な、な、なんだってえええええ!!!!」

キンポー「A君!写真はないのか!」

「ああ、今度撮ってきましょうか?」

わたぶ~「私のカメラを貸そう!これなら夜間での風呂場とか盗撮にももってこいの機能があるし!」

ドクター「君の事を少しだけ誤解していたようだ・・」ゴクッ

「早速みなさん仲良くなれたようですね!それではあとのカリキュラムは追って連絡しますから今日はここまで。明日また9時に集合してくださいね!」

メンちゃんはそう言い残してスタスタと部屋から出ていく。

「A君!飲みに行こう!」パシャ!

「もっと奥さんの話を聞かせてくれ!わはははwww」

「ふん・・・おごるよ」フン

こうしてAはD専でもないのにすばらしい奥さんを持つ逸材として世界トップクラスの3人に認められ、4人で行動を共にするようになった。D専同期50名からは尊敬の意を込められ「PIG4」(4匹の豚)と呼ばれるようになり、その地位を確立していく事になる。

 

続く