売れない保険屋さん

セールストークのネタになれば。

プロゴルファーに転職した話

2017年、末日、プルデンシャルの後輩からプチ忘年会に呼ばれた。忘年会というかたった二人での差し飲みだ。
私が現役時代、後輩の彼は2年連続で社長杯に入賞したなかなかの実力者たちだ。
プルデンシャルの社長杯はハードルが高く、その社長杯に2年連続で入賞できたならばとりあえずは転職成功、一安心と言ったところだろうか。1度も行けない人もいるくらいだからね。
その後、私は退職したので3年目に行けたかどうかは知らなかったけど、きっとコイツは成功するだろうと思っていた。

「先輩、今ナニやってんですか?」

「プロゴルファーだよ」

「え?スコアはナンボくらいで?」

「130くらいw」

「??」

「えと、年収は?」

「500万ないくらいかな」

「???」

「ゴルフしかしてないからそんなもんじゃね?」

「????」


つまり、私は社長のお供でゴルフによく行くのだ。平日も祝日も土曜も行くのだ。
元々ゴルフはへたくそだし、上達するつもりもさらさらない。ところが今勤めている会社ではゴルフ経験者が皆無な上、社長と一緒にゴルフなどどお金をもらっても行きたくない数ある会社の行事の一つで、そこで白羽の矢がスコーンと突き刺さったのが中途入社で入ってきた私である。
面接で「ゴルフできる?」「できますができません(ヘタクソ)」とアッピールかましてしまったものだから「レジャー担当」つまり、社長のお供担当として採用された裏経緯もあったようだ。
そしてヘタクソくらいがちょうど良いのだ、社長もヘタクソだから。

つまり私はゴルフをしながら給料をもらっている。だからこれをプロゴルファーと呼ばずしてなんと言おう。とは言え、普段の仕事もけっこう忙しく、「あのショップが今日からセール」となれば会社のベンツを走らせて社長とともにゴルフ量販店へ向かい、気分転換が必要だと判断されれば打ちっぱなしで打ち放題。大変神経を使う業務内容であるが、私は決して社長秘書なんかではなく、れっきとした営業マンとして採用されており、日々、月間、年間のノルマも課せられているが、よく出来た数名の後輩が私の分まで仕事を受注してくれるおかげで実践からはかなり離れている。つまり仕事をほとんどしてないと言えばその通りだが、私にとっての仕事はゴルフなのだ、プロなんだから。そんな遊び三昧に見られがちな私に向けられる社員の目はとっても冷たいかと言えばまったくそうではなく、むしろ社長を連れ出してくれるという事で特に役員・中間管理職連中からは貴重な人材として重宝されているようだ。

しかしながらストレスはある。私は元々ゴルフなど嫌いだ。しかも社長とずっと一緒なのだ。全社員から恐れられる社長とずっと一緒にいる事ができる社員など私くらいのものだろうけど、これは仕事だし、お給料がもらえるならこんなのは余裕である。

「先輩、なんか楽しそうっすね」

プルデンシャルの後輩がボソっと言った。聞けばさすがに見込み客が枯渇し、いったいどうしたらいいかさっぱりわからず、八方塞がりな状態だと言うのだ。何か私にヒントがあるかと思い、今回のプチ忘年会と称して私に会いに来たワケだ。

途中で挫折し、夢をつかめず死んでしまった私になんのヒントがあるのだろうか。

あんなに明るくエネルギッシュでちょっとウザかったくらいの後輩が沈んでいる。もはや気も心も水浸し。浸水した水を掻き出す余裕もなく、一度沈みかけた船の沈降を下げるすべはほとんどない状態だ。

(ヘタなアドバイスはできないな)

そうである。私ごときが彼の人生を左右するアドバイスなどできない。ここから不死鳥のように復活できるライフプランナーなどほとんどいないのが現実だ。

もちろん私が生き延びた方法も伝えたが、私のアドバイスなどもはや頭に入らない状況のようだ。私に会いに来たのはもしかしたら途中でプルデンシャルを辞めてしまった哀れな私の末路を確認し、頑張る気力に変えたかったのかもしれないが、プロゴルファーに転職してしまった私があまりにもまばゆく、輝かしく見えたのかもしれない。

「そろそろ帰ろっか」

後輩を促し、店員を呼ぶ。もちろん私のおごりだ。

「明日も早いんだよ、朝5時に社長のお迎え」

「大変っすね」

「あはは、こう見えて忙しいんだよ」

そう、忙しいのだ。「なるべく帰ってこないで」と言われる妻の為にも平日も土曜も日曜もラウンドだ。

 

「今週、いい天気じゃない?」(ゴルフ行け)

「来週は平日もいい天気ですよ」(ゴルフ行け)

「土日は雨みたいですよ」(平日にゴルフ行け)

 

おかげさまで週間天気は調べなくとも自然と私の耳に入ってくる。今年も全社員の期待を背負ってゴルフに向かい、これで給料をもらう私は大変忙しく、愛する家族を養うためにカラダが資本な職業に就いたワケである。

 

プロとは。

いかなる事があっても休んではならず、己の体調管理に厳しく向き合いながら社長のOBボールを走って探しに行ける脚力を維持しなければならない上、社長を気持ちよくラウンドさせるトーク技術も要求される為、政治経済は元より色んな話題に精通しないとこなせない職業だ。

 「いよっ!しゃちょー!ナイスショット!」

私はこれで安定収入を得ていると言ってもまったく過言ではない。最近太ってきたしなあ。

おわり